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2006年05月11日

映画『オアシス』を観て「障害」について考える

オアシスオアシス


2002年ヴェネチア国際映画祭 監督賞・新人俳優賞受賞作品

映画『オアシス』の公式サイト

ラブストーリーの傑作!
既に4年前の作品なので予備知識があったにもかかわらず、主役のふたり、主演女優のムン・ソリと主演男優ソル・ギョングの演技に圧倒された。重度脳性麻痺の人間をここまで演じきることができる女優が、はたして日本にいるのだろうか。そしてソル・ギョングという俳優の存在感と演技力。絶えず鼻をすすり、落ち着きなく貧乏ゆすりしている様を見ていると、俳優が演じていることを忘れてしまうほど。まさに刑務所帰りのチンピラがそこに居る。イ・チャンドン監督の演出も新鮮で、ファンタジックであり時にユーモアに溢れ、韓国の障害者差別も声高にではなく冷静に描いてる。

監督の意図としては、究極のラブストーリーを描くために重度の脳性麻痺と前科者という、社会や身内からさえも疎まれている男女を設定したのだろう。特異な設定ではあるけれど、“将軍”(主人公男性の2人だけの間での愛称)の無垢な優しい心、“姫”(同じく主人公女性の愛称)のせつないまでの女心にこんなに胸打たれるのには、この設定しかなかったのかもしれない。美男美女の俳優が演じる奇麗事の恋愛モノやお涙頂戴の闘病モノにはせずに、真っ向から描いている「本物の恋愛映画」だと思った。“姫”が部屋を這いずって掃除する淡々としたラストシーンだが、男性に一人の女性として愛されたことで、自分が疎まれたり哀れと思われるだけの存在ではなくなったという自信に溢れて見え、爽やかな後味になっていたと思う。

ハンディキャップについて思う
この映画のレビュー記事をいくつか読んだのだが、拒絶反応を起こした人が少なからずいることに驚いた。理由は重度の脳性麻痺をリアルに表現した演技が、あまりにショッキングだったためだろう。脳性麻痺の人が書いたレビューにさえ「違和感を感じた」とあった。演出的理由からある程度過剰な表現がなかったとは言えないだろう。しかし私はリアリティを感じこそすれ、衝撃を受けなかった。

30年以上前のことだが、あるきっかけで肢体が不自由な人たち(主に脳性麻痺の人たち)の施設を訪問する機会があり、それが元で短い期間だが彼らの中の文芸サークルの人たちと交流したことがある。まだ街に車椅子の人は見かけることのない時代である。恥ずかしいことだが、そのとき初めて知的障害は伴わないなどの脳性麻痺の病状を理解したのだった。

街で車椅子の人に出会うことも珍しくない現代の日本では、ハンディキャップを持つ人々への理解も進んできた。私たちは偏見や差別意識を持つことなく、パラリンピックでの彼らの活躍を応援する。

だが、脳性麻痺の障害者(知的障害者についても同じ)に対してどうなのか?
映画『オアシス』のシーンの中で、レストランから追い出されたり、“姫”が“将軍”の親類から汚らわしいものを見るかのような視線を受けるなどの露骨な差別は、現代の日本ではないだろう。ところがレビュー記事を例にしなくても、彼らの「四肢は硬直し、大きく顔をゆがめ、言葉が明瞭に発声できない」姿を直視できない、またはショッキングと感じるが人間が少数ではないのである。これは何故だろう。

先日NHK番組『がんばりよ 健太〜高知・6人兄弟の物語〜』(「にんげんドキュメント」)の再放送を観た。脳性麻痺の健太君は小学校で普通に受け入れられていて、見ていて安堵した。彼の発声障害が軽いということを割り引いても、健太君のクラスメイトたちは脳性麻痺という病気とその患者に偏見を持つことはないだろう。答えはここにある。

そもそも“健常者”と“障害者”の間の線引きなどありえないし、分けることのなんと無意味なことか。誰でも交通事故や加齢のための病気などで“車椅子の人”になる可能性がある。更に言えば誰でも大なり小なりハンディキャップを持っている。私自身、背が低いというハンディキャップを持っている。(容姿に自信がないということで、映画の中で“姫”が「今晩は一緒に居てほしい」と“女性から誘う”シーンに共感できたりして…笑)

脳性麻痺についての理解がないという無知を責める気はない。しかし知らないことは不幸であり、心が自由ではないと思う。

注記:“障害者”という言い方には異論(詳しくはこちらを参照)もあり、私自身も本来は使いたくないと考えます。「障碍者」「障がい者」と表記している人もありますが、私自身は英語での「ハンディキャップを持つ人」という言い方が好ましく思います。が、この記事ではあえて統一していません。

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posted by Masako at 18:30 | Comment(7) | TrackBack(0) | 映画・演劇・TV番組 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
障害者という言葉が大嫌い、、、この言葉は非常にキツイ言葉だと思う。

私、あまり障害のあるなしを気にしない人らしいです。養護学校の先生に指摘され、気にしない人だと知りました。というのは、どうも私の育った学区が、障害のある子を受け入れる所で、普通に普段から接していたかららしいです。(先生談)

そんな私ですが、母が脳血管障害で健常者でなくなった時の周囲の目と言葉には心が痛みました。
そうなんですよね。誰もこうなりたくてなっていないのです。

レインマン、フォレストガンプ、アルジャーノンに花束を、聖者の行進、色々ありますね。「オアシス」も機会があれば観て見たいです。
Posted by ももちゃん at 2006年05月11日 19:17
当事者やその家族の中には、「言葉」にはこだわらないという人もいるようですが、障碍を障害と無頓着に当て字する国(官僚)の姿勢には抵抗したいです。

私も「線引き」しない人間だと言い切りたいのですが、無意識の心の底に眠っている偏見があるかもしれません。しかし背が低いことで好奇の目で見られたこともある経験は、私の人生を豊かにしていると言い切れます。
なあんて。不便なこともあるけどね(笑)

お母様のことでそんなことがあったのですか。
残念なことに日本の社会もまだまだなのだなあ。

「オアシス」は絶対オススメ。この映画をテレビ放映をするようになれば、日本も進歩したと言えるんでしょうけどねえ…。
Posted by Masako at 2006年05月11日 21:41
 私には苦い思い出があります。今から20年ぐらい前、大学のサークルの後輩から電話がありました。待ち合わせ場所に行ってみると車椅子の重度脳性麻痺の男性と一緒でした。その方は障害者の自立活動をしていて、映画まで作っているのでした。彼女はその会のお手伝いをしていました。私は始めて脳性麻痺の方と話をして今まで自分がかなり偏見を持っていたのだということがわかりました。しかし、彼女から親からは反対されているが、障害者の方と結婚したいという手紙が来た時には、強く反対したのでした。相当な覚悟がいると思うので、私の言葉でぐらつくぐらいなら、やめた方がいいと思ったのでした。彼女は結局独身を通し、でも、会の活動は続け、長年の苦労が実りNPO法人にまでこぎ着けました。今思えば、あの時もっと明るく賛成してあげれば良かったのかもしれません。私だけでも味方になってあげれば良かった。
 映画はダニエル・D・ルイスの「マイ・レフト・フット」もお勧めです。
Posted by 未草 at 2006年05月14日 00:57
未草さん、お返事が遅くなりスミマセン。
難しいご相談でしたね。私の場合どうしたかと想定しても、応援してあげられたかどうだか…。
でも、今でも苦い思いを持ち続けていらっしゃる未草さんの気持ちを、お友達は汲んでいると思います。お友達もご立派です。

「マイ・レフト・フット」、レンタルできるようだったら、リストに追加しますね(^^)
Posted by Masako(なずな) at 2006年05月14日 21:32
「誰でも交通事故や加齢のための病気などで“車椅子の人”になる可能性がある。更に言えば誰でも大なり小なりハンディキャップを持っている。」

ここにすごく共感しました。

ももちゃんの「誰もこうなりたくてなっていないのです。」
の言葉にも大きく頷きながら読みました。

子どもが街で「どうしてあの人はああなの?」
って聞いてきたときに、「しー!黙ってなさい」
なんて言いたくないな。
子どもなりに理解させたいなと思いました。
Posted by いく@しずおか at 2006年05月15日 16:45
いくちゃん
偏見を持つきっかけは正しい情報を知らないことからですよね。
子育て中のいくちゃんからのコメントを心強い思いで読みました。
Posted by Masako at 2006年05月15日 21:25
なずなさんのおっしゃるように、隠れた偏見が私にも絶対にあります。
それが怖いのです。

普通に生活していたら、健常者であり続ける事が当たり前なんですけど、死やハンディキャップとはホント背中合わせなんですよね。
だから、軽はずみに障害者とかって言葉を使いたくないです。

いくちゃん、今の時代は、情報が発達しているからでしょうか?教育のお陰でしょうか?子供達は「人種」「ハンディキャップ」「性同一障害」等の区別を受け入れているのか、失礼な言葉を吐く事は無いですよ。
Posted by ももちゃん at 2006年05月16日 17:15
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