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2006年02月25日

『ノーザンライツ』星野道夫 著 を読む

数々の心に響く言葉によって紡がれた珠玉の作品

ノーザンライツノーザンライツ

アラスカに移り住んで自然と野生動物の写真撮影と著作活動をした、カメラマン星野道夫の遺作。彼のアラスカの友人たちとの交流を軸にして、彼らと共にアラスカに暮らす生活者としての視点で、アラスカの未来を見つめる著者の思いが伝わってくる作品だった。

第二次大戦後、ジニーとシリアという2人の女性パイロットがオンボロ飛行機でアラスカに渡るところから物語は始まる。この場面での読者をわくわくさせる筆の運びは、著者がカメラマンとしてだけではなく、著述者としての才能にも溢れていたことを教えてくれる。フロンティア精神に富んだ2人のアメリカ女性は、美しいアラスカの自然を愛してマッキンレー山麓に「キャンプ・デナリ」を造り、核実験場化計画や油田開発への反対運動を通して自然保護活動家になっていく。星野は2人からアラスカの戦後史を生きた彼女たち自身の半生を聞きながら、また先住民族の友やベトナム帰還兵の友との交流を通して、アラスカの“伝統”の歴史、異文化と開発に翻弄される現代、“かすかな希望”が見える未来を考え続ける…。(“”内は著者の表現)

読みながら甦ってきた記憶があった。以前に見たテレビのドキュメンタリー番組である。伝統的な暮らしとアメリカの現代文化の狭間でアイデンティティを見失い、ドラッグやアルコール依存症が広まるアラスカ先住民たちの苦悩に焦点を当て、ポトラッチ(お祭り・儀式〔参照〕)を取材した番組だった。あの番組はおそらく「苦悩するグッチンインディアン」の章で語られているそのままではないのか。そう確信したときに、忘れかけていたほどの記憶…遠い地の、私にとっては遠い問題が哀しさをともない引き寄せられた。

アラスカ国有地自然保護法と北極圏野生生物保護区の拡大を勝ち取ったシリアが言う。
…でもね。百パーセントの勝利なんて絶対存在しないのよ。時代はいつも動き続けていて、人間はいつも、その時代、時代にずっと問われ続けながら、何かの選択をしてゆかなければならないのだから…
グッチンインディアンのリンカーンの言葉
人間が生きのびていくために一番大切なのは怖れという感覚をもてるかどうかだと思う。グッチンインディアンの世界で昔、それは飢餓のことだった。が、今は少し違うと思う。もっと大きな、自然に対する畏怖のようなものだよね…
この本にはこの他にも心を打つ、本物の言葉がたくさん散りばめられている。先住民の古老の言葉、自殺を7歳の息子に助けられたベトナム帰還兵の言葉、原野の空を飛び回るフロンティア魂を持つパイロットの言葉…。それらをアラスカへの熱い想いを込めながらも静かな筆致の星野の美しい文章が紡いでいく…。

再生する人々に淡い光を感じ、アラスカの未来にかすかな希望の光を見た星野は、この本を残して後、カムチャッカ半島で取材中にヒグマに襲われ逝ってしまった。しかし彼の魂は、アラスカの空にかかるノーザンライツ=オーロラとなって今もやさしく、アラスカの大地を見つめている気がする。

いつの日かキャンプ・デナリのロッジのベンチに座り、星野が見たカリブーの大群が移動する“遠い自然”を身近に感じながらマッキンレー山を眺めてみたい。アラスカに傾けた星野の情熱の欠片を拾いながら歩いてみたい。彼とジニーとシリアや先住民族が、その日まで歩んだ足跡を偲びながら。

立ち読みできます→新潮社「ノーザンライツ」

「星野道夫の世界を写真と文章で綴るwebstory」が素晴らしい→星野道夫公式サイト

最後に。
この本をブログで紹介してくれたトラベエさんに感謝。
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posted by Masako at 20:17 | Comment(4) | TrackBack(0) | 読書・音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
リンクandトラックバック、ありがとうございます。
Masakoさんの読後感はキチッとしていて素晴らしいですね。
そういうのとリンクしていただいて光栄でもあり恥ずかしくもあり……複雑な心境でございます(^^)

星野道夫の著作「アラスカ 光と風」(図書館)→「ノーザンライツ」(図書館)→「旅をする木」(文庫本購入)と読み、今は「イニュニック」(文庫本購入)をパラパラとめくっています。

この人の本、一気に読むというのではなく、時々、パラパラするのが私には合っているかも?……手許にないとパラパラも出来ないですから「ノーザンライツ」も買わなくてはならないかな?(^^)
Posted by トラベエ at 2006年02月26日 10:16
星野さんの写真は美しくて、痛い。大きな自然に触れると、動物であれ、星であれ、痛い。

そういうものから逃げずに、受け止められるMasakoさんは偉い。
Posted by ろくのママ at 2006年02月26日 12:17
この本、良かったです。
本当に感動した本のほうが感想を書きにくいですね。
キチッとどころかなんだか訳が分からない文章になって、
ほめていただいても…複雑な心境でございます(^^;

星野道夫の著作は私ももっと読みたいです。
蔵書としてはとりあえずコレと、あと写真集が欲しいかな。
おついでがありましたら、写真集の購入にご協力いただけるとうれしいです…冗談(笑)
Posted by Masako at 2006年02月26日 12:18
ろくのママさん
また、カブッた(笑)
「痛い」…そう、そのとおりですね。
あなたは私よりもっともっとセンシティブだから…。
Posted by Masako at 2006年02月26日 12:21
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